【書評】日本人という呪縛

”外国人が語る日本人論”というのは以前から何冊も本が出ているので飽きられ感がありますが、長く日本国内で記者をやっていて日本社会にも詳しいオーストラリア人が書いたというので読んでみました(とはいえネイティブな英語で書いて日本語に訳したみたいですけど)。

とはいえ、この手の本にありがちな、上から目線で「日本人のここが残念だ」的な指摘がどうしても連発するので、普通の読者なら途中で読みたくなくなってしまうのではないかと思いますね。

で、記述のほとんどは、外国人のあなたに言われなくてもわかってるよ、ってことばかりです。

が、例外的に目からうろこというか、参考になった箇所も2つほどあります。

1つは、 傲慢症候群(ヒュブリス・シンドローム)についての考察です。自分だけは特別だという特権意識が強く、相手を見下して、思い通りに動かそうとする精神状況になった人のことを精神病理学の世界でこう呼ぶのだそうです。日本には、謙譲・おもてなし精神の裏返しというか、相手が何でもしてくれるだろうと傲慢・尊大になってしまう人がかなりいるという指摘です。モンスタークレーマーとかが典型ですが、本質論としては、中小企業のワンマン社長や学校の先生など、日本社会のそこここにその芽は潜んでいると看破しています。

 その関係で私が最近気になっているのは、市議会議員レベルの人たちにもこれが蔓延している(要するに勘違いさんが多い)ということです。大選挙区制なので、よほどの不祥事が起きない限り毎回支持者を固めておけば当確。そもそも不祥事があってもニュースバリューがないのでよほどのことがない限りメディアで報道されません。だからチェック機能が働かず、市職員に対してやりたい放題なのです。もちろん全員が傲慢な訳ではなくて、一部の議員に限るのですが。

そしてもう1つは、日本の高品質な果物をオーストラリアに輸出しようとすると、オーストラリア側のさまざまな難癖やら障壁でうまくいかないという指摘です。これは、この本以外で私は聞いたことがありません。

ちなみに、著者曰く、オーストラリア側の規制は明らかに理不尽だそうです。ではなぜこの本でそのような指摘がされているのでしょうか。その理由は、日本の政治家や行政当局がそういった理不尽を国際交渉の中で糺して輸出の道を開くべきなのに、彼らにやる気がなく、輸出に向けて頑張っている国内農家たちの努力を踏みにじっていることを非難しているからです。

品質が高く、本来国際競争力があるはずの日本の果物の輸出が阻害される一方、オーストラリア産の果物が容易に(一方的に)日本に入ってしまい、日本の果物農家が駆逐されつつある(作付面積・生産量が減っている)のが、著者にはとても残念で仕方がないようです。

この2点だけでも、本書には読む価値があります。しかし、よくある日本人論、という意味で埋没してしまっているのがとても残念です。この本が話題になって、不公平貿易の解消につながればよいのにと思いますね。

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