書評『大学職員のリアル』

大学職員って、学生相手の仕事だから民間企業のようにガツガツ営業する必要のないホワイト職場で、雇用も給料も安定していていいよね?なんていう話がネットで噂になったりすることがありますが、その実態はどうなのでしょうか。

そんな大学職員の実状に迫った本です。著者は、民間企業から第二新卒レベルで私立大学に転職して、その後は塾業界に転職。現在は高大連携とか進路指導の世界で活躍されている方ですね。大学関係者に知り合いが多いので、その取材経験を積み上げて本を書いたのでしょう。

でもこのテーマ、公務員って、首にならないし、給料は安定しているし、仕事もそれほど大変じゃないよね、、、みたいな話と、なんか似てますね、、、。

そんな興味もあって読んでみました。

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大学職員は、ここ20年ほどで劇的に大変になっている

本書を読み始めてすぐ、第1章にこんな引用文が出てきます。ちょっと長いですが引用します。

 現代の大学は、例えば二十年前の大学と比べると、格段に複雑・高度で多様な機能を果たすことが期待され、しかもそれらの機能をより効率的・効果的に果たすこと、そしてその結果を広く社会に示すことが求められるようになっている。

 例えば、二十年前の大学に、「大学評価」という制度は存在せず、「ハラスメント」という概念はなかった。大学の「情報化」はまだ動き出したばかりの段階で、「情報セキュリティ」の保全のために多くの資源を投入する必要もなかった。政府による「規制と保護」行政のもとで、「市場」への新規参入のハードルは高く、「市場」も拡大を続け、学生獲得や外部資金獲得に頭を悩ます必要もなかった。「オープンキャンパス」やホームページを活用した大学広報も存在しなかったし、「顧客サービス」「社会的説明責任」「コンプライアンス」といった米国発の考え方もほぼ無縁であった。留学生などほとんどの大学にとって「別世界」の話であって、「単位互換」「共同学位制度」の構築など議論の俎上にも上らなかった。「産学連携」「TLO」「知財活用」などといったことは、口に出すことさえタブー視されていた。 

 それがいまはどうか。

 いやしくも大学の看板を掲げ、それなりの学生と教員を集め、大学として社会的に評価されようと思えば、右に例として挙げたような新たな仕事、責任、機能をきちんと果たさなければいけない時代になったのである。しかも、経営の効率化を追求するため、最大の支出費目である人件費の増加は何としても避けたい(できれば減額したい)ところであり、これまでよりはるかに多くの高度化・複雑化・多様化した業務を、下手をするとこれまでより少ない人数の職員でこなさなければいけなくなっているのである。(中略)要するに、大学職員の仕事は、この二十年間で全く変わってしまったのである。

(本間政雄「これからの大学職員とは」『大学時報』三二〇号〔2008年5月〕)

本間氏は元文部官僚で、京大副学長、立命館副総長などの経歴を持つ大学行政の専門家です。この引用文が書かれた16年前の時点で、すでに国立大学法人化など激動の時代が訪れていたわけですが、国公私立問わず、大学という組織がやらなければならないことがとにかく増えてしまったわけです。

当然、教員も大変になりましたが、教員がなるべく研究と教育に集中できるようにと、事務方は一層大変になったわけです。教員の中には、事務方の苦労を分かち合ってくれる人もいますが、そうでない人もたくさんいて、苦労は事務方だけが背負わなければ大学も、まああったことでしょう。

で、私がこの本を読んで痛感したのは、大学職員が「コスパがよいかどうか」は、どの大学で、どんな仕事をしているかで決まる、ということ。

大学職員の仕事って一概に言っても、本部の経営企画部門、管財部門、在学生対応、キャリアセンター、OB会関係、入試(学生募集)部門など多岐にわたります。普通の人がイメージするのは、「役所=窓口」と同じで、学生対応なんでしょうけど、そんなホンワカした仕事は、大学職員の仕事のうちごく一部にすぎません。

いや、学生対応だって、決してホンワカした仕事ばかりじゃないんですが、、、トラブル対応とかね。

しかも、経営(財務)の状況、そして職員人件費(給与水準)は、大学によりピンキリです。もちろん国公立大学職員の待遇は、その出自から、国家公務員や地方公務員給与に準じた相応の水準ですが、私大は大学により天と地の差があります。

さらに、そもそも私立大学には、学生募集でコケると大学自体の存続リスクがないとは言い切れません。

どの大学で、どんな仕事をしているかで、コスパは雲泥の差がある、といったことがお分かりいただけますでしょうか。

大学職員は楽なのか?という問いは、公務員にも通じる

さて、冒頭の引用文で、大学職員の仕事がここ20年ほどで増えた、という話にふれました。でもそれって、公務員にもめちゃくちゃあてはまることなんですよね。

インターネット(デジタル)化社会により、ホームページやSNSによる行政情報の発信、メールによる問い合わせ・抗議等への対応、会議のオンライン化・リアルタイム中継・録画公開・資料の掲載などの業務が増加。

国民への説明責任の強化として、各種政策決定に先立つパブリックコメント(意見募集手続き)の実施、情報公開(行政文書の開示請求)などの業務が増加。

建物などの開発を行う際に取るべき手順(環境アセスメントなど)が増えたこと。

審議会とかの委員を選ぶ際に、女性比率を考えて選ばなければいけなくなったこと。広報物を作る際に、男女共同参画や、差別のない多様性に配慮した表現に配慮しなければならなくなったこと。

会計、契約などでのルールが増え、コンプライアンス・内部統制上のチェック項目が増えたこと。

個人情報保護ルールが厳格化し、文書管理等の手続きが細かくなったこと。役所から個人に謝礼や報酬を支払う際にマイナンバーを取扱わなければならなくなり、煩雑な作業が増えたこと。

国で次々と法律が作られ、そこに、●●計画を作ることとあれば、国や地方自治体は計画を作らなければならず、また、今時の計画は、作っただけではダメで、その進捗状況を毎年各部署が把握して公表しなければならなかったりすること。目標値を入れると、その達成に向けて、民間でいうところの「営業努力」もしなければならず、その負担も増えたこと。

やることはこんなに増えたのに、人は増えたのか?

国も自治体も、当然ながら人なんて増えるわけないですよね。減るばかりです。それなのにやることだけ増えて、公務員なんて報われないですね、、、と、大学職員の本を読みながら考えてしまいました。

この、公務員職場で、やることが増えすぎて、しかも人が減りすぎて、生産性が激落ちしている問題はいずれ別でしっかり論じたいと思います。

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