
『2030-2040年 医療の真実』が示す5年後の闇
私は団塊ジュニア世代ですが、あと20年ほど後、自分が高齢者になったときに日本の医療や介護制度が崩壊し、病気になっても満足な治療が受けられなかったりするかもしれない、と警告する本を読みました。人手不足や医療機関の破綻が深刻化し、そういった未来が迫っているというのです。
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2030-2040年 医療の真実 下町病院長だから見える医療の末路 (中公新書ラクレ 844) [ 熊谷頼佳 ] 価格:1155円 |
119番通報すれば救急車が来るのは当たり前、という時代に育った人間からすると、救急車は来ない、来ても行くべき病院がないため、急病になっても処置できず苦しんで死を待つしかない、あるいは入居できる介護施設がなく、家で衰弱して孤独死するしかない、という未来予言は、本当に恐ろしいです。でも、そんな時代が確実に迫っているのですよね。
しかもその原因は、単純に少子高齢化による人手不足だけではなく、厚生労働省による行き当たりばったりの保険医療政策(どういう診療・医療をしたら医療機関にお金が払われるか)の結果である、というのが本書の主張です。
厚労省として、●●を推進したいとなれば、それに対応した医療が行われるよう、診療報酬でインセンティブを与えるわけです。それに見合うように設備や人材を確保してみたところ、何年か後に国が方針を変えて、診療報酬を下げてくるのです。まさに振り回されたってやつですね。設備投資や人材確保で固定費がかさんでいるから、収入は減っても簡単には支出は削れません。さあどうしましょう、という話です。
医療業界に疎い一般市民はあまり意識することはないですけど、そもそも医療機関って、診療報酬的に有利な個人の開業医は別として、法人レベルだと基本的にはお金儲けができない仕組みになってます。なので、中小の病院は、日々の経営にカツカツで、簡単には設備投資ができないみたいです。何十年前に建てたぼろい建物を建替え、古い設備を更新する余裕がないので、近くにピカピカの新病院ができれば患者はそこに流れてしまい(設備が新しかろうが患者の払う医療費は全国一律ですから、競争力だけ落ちます)、医療従事者にも逃げられ、破産の憂き目にあってしまうのです。
こうして医療機関が減少し、病院難民が発生する、というんですね。著者自身、老境に入っている名脳外科医ですが、ある種、命を懸けて医療政策に物申しているわけですが、その思いは届くのでしょうか。